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姫リンゴ
'11年 11月 20日
島崎藤村の「初恋」や石川啄木の「一握の砂」など、リンゴは昔から多くの文学作品に登場してきました。そこに描かれるリンゴは、甘酸っぱい恋愛やはかない青春の象徴であることが多いようです。童謡詩人金子みすヾの「林檎畑」に、「ひとつ林檎をもいだ子は、 ひとつお鐘をならします。」という一節があります。たわわに実ったリンゴは清らかになる鐘。これらの作品に接しその情景を想像するとき、私はなぜか手のひらにすっぽりとおさまってしまうような小さなリンゴを頭に浮かべてしまいます。真っ赤に色づいた小さなリンゴは絵になるし、おいしそうというよりもなんてかわいらしい、とまず思うのです。
ヒメリンゴと片仮名で表記する場合、それは観賞用で盆栽樹としても親しまれている小さな実をつける「ヒメリンゴ(イヌリンゴ)」をさすことが多いようです。「ヒメリンゴ」は「ズミ(リンゴの近種)」とリンゴの交雑種と言われていて、実は酸味と渋みが強く食用には向きません。海外でも小さい実の観賞用「クラブアップル」が親しまれており、文献によっては「クラブアップル=ヒメリンゴ」としているものもあります。
私たちが一般的に「姫リンゴ」と呼ぶのは、小さくて形が可愛らしいことから頭に「姫」をつけたいわゆる「通称」のようなもので、品種でいえば「アルプス乙女」が広く知られています。「アルプス乙女」は長野県で「ふじ」と「紅玉」の偶発実生として生まれました。長野を象徴するアルプス山脈、そして可愛らしさを表現する乙女 を組み合わせたネーミングがとても印象的です。これを別名として「姫リンゴ」と呼ぶことには何の違和感もありません。
小さな姫リンゴは焼きリンゴやコンポートなど、そのままの形を生かす調理にぴったりです。普通のリンゴでは1人分としては少し大きすぎるものも、姫リンゴを使ったデザートなら形も大きさもちょうどよいですね。紅玉を親に持つため酸味もほどよく、加熱しても食味を損ないません。
アルプス乙女が広く知られるようになったのは、全日空が機内食として取り上げたことが一因といわれています。食器の大きさに制限のある機内食とはいえ、確かにリンゴ一切れでは様になりません。変色や乾燥の問題もあるでしょう。小さなサイズのリンゴならば見た目もよく、ニーズにぴったりと合ったのです。ところでお弁当や料理の付け合せに欠かせないミニトマトも、当初は機内食用にわずかに生産されていたものが、しだいに一般消費者へと広まったのだそうです。
最近では少人数家庭に合わせたミニ野菜(白菜など)も人気です。社会の変化がもたらすサイズバリエーションの多様化は、話題性だけでなく農業生産の活性化につながることも期待できるのではないでしょうか。
文:野菜ソムリエ 高野和子
アレンジ:国家検定一級フラワー装飾技能士 野田徳子
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