コラム一覧へ 葉山椒(木の芽) '11年 04月 15日
庭の片隅にひっそりと植わっている山椒の木。そこから手折ったちいさな葉を手のひらに乗せ、もう片方の手でパンと叩く。立ちのぼるスパイシーな香りを逃すまいとすぐさま手のひらで包み込んで、両手に顔をうずめる・・・子供のころよくやっていた遊びです。


そのままでは匂わないちいさな葉が、たった1回叩いただけでとても強い刺激的な芳香を放つのがとても面白かったものです。山椒の葉には香りのカプセルが埋め込まれているのかしら・・・絵柄を指でこすると匂いが出る不思議な紙が当時子供たちの間で流行っていましたが、山椒の葉遊びもそれと同じような感覚だったことを覚えています。

山椒の香り成分のひとつであるシトロネラールは、虫除けや抗ウイルス作用があると言われています。シトロネラールは名前からも分かるように柑橘系のさわやかな香りで、「シトロネラ」という熱帯植物に多く含まれます。またレモンに多く含まれるリモネンも山椒の香り成分のひとつです。意外かもしれませんが山椒はミカン科の植物なのです。

山椒の若い葉は「木の芽」とも呼ばれ、吸い物の吸い口、焼き魚の添え物や、木の芽味噌にして和え物や田楽に利用します。そしてなんといっても春が旬の筍と木の芽の組み合わせは春の定番。市場では枝についている葉と葉の間隔が狭く、つまっているものほどよいとされています。葉は大きくなるほどかたくなり、鮮度が落ちてくると黒いしみのようなものが出てきます。需要の多くは料理屋など業務用ですが、大きめのスーパーやデパートに行くと手に入ります。カルシウムや食物繊維が豊富ですが、一度にたくさん食べられるものではありません。栄養云々よりも春のあしらいとして、姿や香りを楽しむものです。一枝添えるだけで春らしさがぐんと増すので、特別なものと思わずどんどん家庭料理にも取り入れてみましょう。

ちなみに鰻にふりかける粉山椒は、葉ではなく熟した実を粉末状にしたものです。ちりめん山椒など実そのものを利用するときは若い緑色の実を使いますが、粉山椒は赤茶色に熟し実がはぜた後の皮の部分を使います。
また幹の部分はすりこ木として利用されます。山椒のすりこ木は当たりがよく、うまくすれるだけでなく、少しずつ削られた木の成分から解毒作用が得られるようですよ。まさに全身くまなく利用されているのが山椒の木です。

さて、安房直子さんの童話に「さんしょっ子」という作品があります。山椒の木の精「さんしょっ子」と「すずな」「三太郎」という幼馴染の2人が織り成す物語です。実らぬ想いを抱え、それが破れたあとの行き場のない気持ち・・・3人の不思議な三角関係が美しい言葉に乗って綴られています。子供向けの童話ですが、数々の経験を積んだ大人が読むとまた深く心に残るに違いない作品です。
冒頭、山椒の木がじゃまっけだから切ってしまおうかという両親にすずなは「そうしたら、もう、木の芽あえは食べられないよ」と言います。でも本当のところすずなは木の芽料理が食べたかったわけではなく、木を切ったら一緒に遊んでいた「さんしょっ子」が死んでしまうと思ったのです。

そういえば、手についた山椒の香りを楽しんでいた子供のころは、木の芽和えなどとてもじゃないけど食べられなかった私。遊び相手の庭の山椒の木を周りの樹木とちょっと違う目で見ていたのはすずなと一緒でした。私が食べものとしての山椒のおいしさを知ったのは大人になってからです。人が恋愛を経験して大人になっていくように、味覚も経験によって発達していくのです。最後に、さんしょっ子は大好きな人への思いを残したまま、風に乗って消えてしまいます。そして木の精がいなくなった山椒の木はやがて枯れてしまいます。でも枯れた木の幹は切り取られ、すりこ木になって大好きな人の元に残るのです。
なんて切ない物語でしょう。

文:野菜ソムリエ 高野和子
アレンジ:国家検定一級フラワー装飾技能士 野田徳子


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