コラム一覧へ 黄りんご '12年 01月 25日
子供に画用紙とクレヨンを渡して「リンゴの絵を描いて」と言ったら、ほとんどの子供が赤いクレヨンを手に取るでしょう。でもこれは日本で生まれ育った子供の場合。欧米では赤だけでなく黄色や黄緑色や緑色のクレヨンを使って描く子供が多いそうです。日本人には「リンゴ=赤」という先入観があり、それは子供たちの絵だけでなく、赤く色づいたリンゴでないとなかなか売れないことでも明らかです。大きくつやつやとした果皮が特徴の「陸奥」という品種がありますが、実はもともと黄色種のリンゴ。それをわざわざ袋がけをして、赤くしたものが市場に出回っているのです。最近はそれでも「王林」や「シナノゴールド」など黄色種のリンゴもたいぶ店頭に並ぶようになってきたようです。



先日「ぐんま名月」という黄リンゴをお土産にいただきました。名前の通り群馬県で育成、生産されているリンゴですが、あまりこちらで目にする機会がないのは、見栄えがよくないので売れないからだとか・・・。黄色は酸っぱいとか若く未熟なイメージがありますが「ぐんま名月」は蜜が全体に入り甘く、果汁がたっぷり。一度食べて病みつきになり、わざわざ群馬まで買いに出かけるという「ぐんま名月」ファンも多いのだそうです。見た目だけで判断されてしまうのは惜しいですね。

黄リンゴが一般的なフランスではさまざまな黄品種があり、そのうちのひとつに「レネット」というタルトやパイなどお菓子作りに最適なリンゴがあります。そしてこのリンゴの名前が題名になった本があります。「レネット 金色の林檎」という小学校高学年〜中学生向けの小説で、表紙に大きく描かれた黄色いリンゴがとても目をひきます。12歳の少女とその少女の家に里子としてやってきたベラルーシ出身の少年の淡い恋を複雑な家庭環境とともに描いた物語ですが、背景にチェルノブイリの原発事故が描かれています。
少年が住んでいた村は原発事故で多くの放射能を浴びた汚染区域。原発で働いていた少年の両親もなくなり、少年本人も被曝しています。村にあったリンゴ「レネット」の木は汚染物質としてすべて埋められてしまいましたが、少年は「レネット」の種を大切に日本へ持ってきました。父親が亡くなる直前、汚染されていると分かっていても最後に食べたいと言っていた大きな金色のリンゴ。母親はその種を大切にとっておいて「いつか、どこかの大地でレネットが実ればいいね」と言い残して亡くなりました。少年は母親の夢を受け継ぎ、お守りのように種を持ち歩いていたのです。
この物語を今改めて読んでみると、以前は感じることのなかったさまざまな思いが交錯します。

果樹王国として知られる福島県はリンゴの栽培もさかんです。県では農産物の放射能モニタリング検査結果を公表していますが、暫定基準値以下で出荷されている農産物であっても、消費者の「漠然とした不安」は根強く残っています。ましてやリンゴなどの果物は贈答品としての需要も高いため、自らの責任において食べるものよりも一層買い手は慎重になります。
赤いリンゴより黄色いリンゴは見た目が悪い、売れないというのは単なる先入観の問題。先ほどの「ぐんま名月」のように、希少価値とあいまって人気に拍車がかかるケースもあります。しかし、原発事故により福島県産農産物が失ってしまった「信用」を取り戻すのは、容易なことではありません。

私たちは放射能に限らず、日々様々なリスクとともに生活しています。そしてそのリスクは地球上で生きている限りゼロになることはありえません。過度の不安は冷静な判断力を失わせ、精神的なダメージを与えます。むしろ放射能がおよぼす身体的なダメージよりもはるかに影響が大きいかもしれません。事実を受け止め、情報に振り回されることなく乗り越えようとする強い心こそ、今を生きる私たちに必要なことであると考えています。
文:野菜ソムリエ 高野和子
アレンジ:国家検定一級フラワー装飾技能士 野田徳子


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